大田区がAI電話の実証実験を進める背景
東京都大田区は、電話問い合わせに伴う職員の負担を軽減するため、ソフツーのクラウド型AI電話自動応答サービス「ミライAI」を検証している。スタートアップ企業と地域・行政課題の解決を目指す「HOIP」の一環で、実証期間は2年間である。
自治体の電話窓口には、多様な相談や専門用語を含む問い合わせが寄せられる。さらに、相談者が要件を明確に説明できるとは限らず、誤情報を案内できない行政特有の制約もある。こうした条件が、単純な自動化を難しくしている。
使用ツール「ミライAI」の主な機能
ミライAIは、ボタン操作によるメニュー選択ではなく、利用者と会話形式でやりとりするAI電話自動応答サービスである。
- 自然言語による電話問い合わせへの自動応答
- 通話内容の文字起こし
- 応対履歴の蓄積と管理
- 通話ログや応対フローの分析
- 分析結果を使った問い合わせ傾向の把握と応答改善
ソフツーによると、バックエンドには「ChatGPT」と「Azure OpenAI Service」が採用されている。入力データは通話テキストの解析や回答生成などにのみ使われ、外部サーバへの保存や、MicrosoftおよびOpenAIによるモデル学習・再利用には使われないとしている。
初年度の実証で有効対応率は約40%
大田区は2025年度、防災危機管理課で最初の実証実験を行った。対象は、感震ブレーカーや家具転倒防止器具の支給要件に関する住民からの問い合わせである。
職員対応の80%削減を当初目標としたが、AIの有効対応率は約40%にとどまった。主な阻害要因として、次の点が確認された。
- 相談者の質問自体が曖昧で、要件を特定できない
- 聞き返しが続き、相談者が通話から離脱する
- 声が小さく、音声を正しく認識できない
- 複数人が同時に話し、発話を判別できない
- 条件分岐型シナリオでは想定外の質問に対応しにくい
一方、通話履歴と応答フローを可視化したことで、AI電話が機能しにくい原因を具体的に整理できた。区は、運用課題の把握と庁内の心理的障壁の低下も初年度の成果としている。
2026年度は建築審査課で300時間削減を目指す
2026年度の対象は建築審査課に移った。同課には、用途地域、建ぺい率、容積率、斜線制限などに関する問い合わせが集中し、年間の電話対応時間は推計約1000時間に達する。その多くは、大田区の特設サイト「まちマップおおた」で確認できる内容だという。
2026年10月1日から2027年2月28日まで実証し、電話対応時間を30%、年間換算で300時間削減することを目標としている。区民や事業者は専用ダイヤルに電話し、建築制限に関する客観的な情報を音声で確認できる。
回答精度を高める3つの設計
1.回答範囲を客観的な情報に限定する
AIの回答対象は、「まちマップおおた」で公開されている用途地域、建ぺい率、指定道路の状況など、解釈の余地がない情報に限定された。個別の建築計画に規定が適用されるかといった判断を伴う質問には、回答できない旨を案内する。
2.職員の知見から想定QA集を作る
建築審査課の職員が持つ知見を基に想定QA集を作成し、AIが回答に利用するデータとして読み込ませた。実証期間中も、通話ログを分析しながらQAと応答シナリオを改善する方針である。
3.言い換えと専門用語をひも付ける
同じ意味を持つ異なる言い回しに加え、現場の俗称や専門用語の類語を各QAにひも付けた。これにより、想定質問と表現が異なる場合でも、文脈やキーワードから意図を捉えられるよう調整している。
時間削減以外に期待される効果
大田区は、年間300時間の削減に加えて、次の効果を期待している。
- 専門業務への集中:電話による離席や思考の中断を減らし、建築審査や複雑な相談に職員の時間を振り向ける。
- 利用者の利便性向上:夜間や休日を含む24時間365日の応答体制を構築する。
- デジタルアクセシビリティの確保:Web検索が苦手な人にも、音声による情報取得手段を提供する。
実証から読み取れる導入上の要点
以下は、記事で報告された事実を基にした整理である。行政のAI電話導入では、全ての問い合わせを一律に自動化するのではなく、客観情報を返せる領域と、人による判断が必要な領域を切り分けることが重要と考えられる。また、導入時点の応答率だけで評価せず、通話ログから失敗要因を特定し、QA、類語、シナリオを継続的に更新する運用が必要だと読み取れる。
なお、建築審査課で掲げる30%削減は実証目標であり、達成済みの実績ではない。最終的な効果は、2027年2月28日までの検証結果を待つ必要がある。



